大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和36年(ラ)179号 決定

抗告人 武田伊佐美

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告の趣旨及び理由は別紙に記載するとおりである。

一件記録によれば、原裁判所昭和三五年(ケ)第三六九号事件における昭和三六年五月二二日の競売期日において常岡和代が最高価競買人となつたが、その後同月二六日抗告人からいずれも債務の弁済を理由として右競売事件及び記録添付中の原裁判所昭和三六年(ヌ)第四号事件につき競売手続開始決定に対する異議申立がなされたため、原裁判所は昭和三六年五月二六日と定めた当初の競落期日を変更した上同年七月四日前記昭和三五年(ケ)第三六九号事件については異議申立を容れ競売開始決定を取り消し競売申立を却下する旨の決定をなしたが、前記昭和三六年(ヌ)第四号証事件については、強制競売手続においては弁済という実体上の理由にもとずき開始決定に対する異議を申立てることは許されないとして異議申立を却下したこと、故に本来ならば前記昭和三五年(ケ)第三六九号事件の競売手続が取り消されたことにより、民訴第六四五条第二項にしたがい前記昭和三六年(ヌ)第四号事件の競売手続を続行すべきものであるが、右各異議申立に対する決定をなす以前である昭和三六年六月九日昭和三六年(ヌ)第六三号強制競売申立がなされ、該申立は記録に添付されたため、および前記(ヌ)第四号事件に関し抗告人から差押債権(金六四、七〇三円)の弁済を受けた旨の債権者の領収証(民訴第五五〇条第四号参照)が提出されていたため、原裁判所は昭和三六年(ヌ)第六三号事件のため競売手続を続行し、該事件の競落期日を昭和三六年八月四日午前一〇時と定めて、該期日において原競落許可決定を言渡したこと、以上の事実を認めることができる。

したがつて原競落許可決定は民訴第六六〇条第一項の規定に反し前示昭和三三年五月二二日の競売期日より七日以上を過ぎた同年八月四日の競落期日に言渡されたものであるが、右規定は訓示的規定と解すべきであり、その制限に従わない競落期日であつても直ちに無効とはならないし、また競落許可についての異議の事由にも該当しない。

次に不動産競売手続続行中に、債務者から該事件の差押債権の弁済を受けた旨の差押債権者の領収証が競売裁判所に提出された場合は、競売裁判所は民訴第五五〇条第四号にしたがい、強制競売手続を停止すべきであるが、同一不動産に対し別の強制競売申立があつた場合には、民訴第六四五条の法意に照らし、この申立書を記録に添付すれば、これより同申立のため競売開始決定があつたと同一の効力を生じ競売手続を続行すべきものと解するを相当とするから、前記認定の経過をたどつた本件においては、原裁判所が昭和三六年(ヌ)第六三号事件のため前記昭和三五年(ケ)第三六九号事件の競売期日以後の手続を続行し、競落期日を定めてなした原決定には何等違法はない。

つぎに、記録添付の登記簿謄本によれば本件昭和三五年(ケ)第三六九号事件の競売申立以前である昭和三六年五月三一日附を以て服部タマノに対する抵当権設定登記がなされていることを認めることができるけれども、それ故に所論のように競売手続をはじめから開始し直さねばならないものではなく、利害関係人として競売に関する告知をしなければならないものでもないから、所論は競落許可決定に対する異議事由としては当を得ない。原裁判所としては今後行うべき配当手続において前記服部を利害関係人として遇すれば足りる。その他記録を精査しても原決定にはこれを取消すべき違法を見出せない。

原決定は相当で本件抗告は理由がない。よつて民訴第四一四条・第三八四条・第八九条・第九五条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 川井立夫 秦亘 高石博良)

抗告の趣旨

本件不動産競落許可決定を取消す

本件不動産競売申立は之を却下する

旨の御裁判を求める

抗告の理由

一、本件不動産に対し三つの競売申立が為されて居るが、その経過を明らかにすると次の通りである

(一) 昭和三五年(ケ)第三六九号に付ては

昭和三五年十一月十五日競売手続開始決定

(二) 昭和三六年(ヌ)第四号に付ては

昭和三六年一月十六日強制競売の申立

(三) 昭和三六年(ヌ)第六三号に付ては

昭和三六年六月九日強制競売の申立

が為されて居る

二、しかして昭和三六年五月二二日常岡和代が競落をして居る同年五月二十六日右同三五年(ケ)第三六九号、同三六年(ヌ)第四号事件に付競売手続開始決定に対する異議申立をした結果同三五年(ケ)第三六九号事件に付ては同三六年七月四日付で右決定が取消されその取消決定は確定した

又同三六年(ヌ)第四号事件に付では同日付で異議申立は却下された

三、しかる処同三六年八月四日付で同三六年(ヌ)第六三号事件として前記常岡和代に競落許可決定が為された

しかし右許可決定は同三六年五月二二日の競売期日に基くものであるが競落期日は競売期日より七日過ぎてはならない旨民事訴訟法第六六〇条に規定されて居る趣旨と右事件に対する競売手続開始決定の効力発生は同三六年六月九日であることを考え合せると無効になつた競売期日を新たな事件の競落期日として続行し前記競落許可決定をしたことは全く違法であると信ずるものである(尤も昭和三六年(ヌ)第四号事件の続行としてならばまだしもと思料せられる

四、更に又抗告申立人は本件不動産に付右事件の競売申立以前たる昭和三六年五月三一日付を以て服部タマノに対する債務の為抵当権設定登記を為して居る(記録添付登記簿謄本参照)

果して然らば本件競売手続を最初より開始し右服部タマノに対し利害関係人として競売に関する告知をしなければならないものである、この点原審が何等手続を為すこと無くして為された右競落許可決定は違法と謂はざるを得ない

五、以上の如く何れにしても原決定は取消を免れないものと信ずるものである

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例